井脇幸江さん × 神戸里奈さんロングインタビュー【第2回】
 

第1回では先日行われたIBC公演「ジゼル」についてお話をして頂きました。
さて、今回もどのようなお話がお聞き出来るか楽しみですね♪
では、続きとなります第2回を御覧ください。

神戸> 子供の頃のことについてお伺いしたいのですが、最初にバレエを始めた年齢ときっかけについて教えてください。

井脇> 幼稚園の時に男女に別れて課外授業のようなクラスがありました。
その時に初めてバレエというものに出逢いました。
上履きのままで、バレエだったのかどうかも記憶は定かではないのですが。
音楽に合わせて体を動かすことが好きだったので、「やりたい!」と即座に両親にお願いしました。
でも父は小児科医をしていて、「バレエは体の負担にもなるから骨格がもう少し整ってからにしなさい」と言われてしまいました。
それから小学校に入って、当時テレビドラマの中にバレエを踊る少女の役があって、その子がチュチュ着てるわけですよ。
で、トコトコトコって踊っているのを見て「あーそうだバレエやりたかったんだ」って。

神戸> 思い出した感じですね(笑)

井脇> そう、それでバレエやりたいって言った日が、、、小学校2年生の冬ぐらい。

神戸> それはご自身の意思で?お母さんに連れてかれてとかではなく??

井脇> もう本当に自分の意思です。
お友達の発表会観て、私も踊りたいとか衣装が着たいとかではなくて、ただ本当に動きたいっていう(笑)

神戸> 綺麗なもの、可愛いものとかではなく、憧れたわけじゃなく、踊りたかった!

井脇> クラシックの音楽をかけて、なんかあの雰囲気にいたかった。

神戸> なるほど。だからこそ今の井脇さんの強さがあるのもしれないですね。
バレエを習いに連れていかれた子とは違う部分。
自分の意思で決めたというスタートだったんですね。

神戸> 小学校2年というと、、、

井脇> 8歳!母が近くにバレエ学校はないか?
探したら徒歩10分もかからないところに東京バレエ団があったのです。
そしたら問い合わせたのがたまたま、年に一度しかないオーディションの直前でした。
東京バレエ学校では10年間発表会もなく、先生がとても厳しくてスパルタでした。
あんなに苦しいレッスンの何が楽しくてやっていたんだろう?よく続いたなって思いますが、今振り返ると本当にその空間が好きだったんですね。
それと数人いらした先生のうちのお一人はとてもピアノにうるさい方で、ピアノの曲が良くないときは「僕が歌うから!」って歌ってくださったのです。
それで私もピアノにはかなりうるさく育ってしまいました(笑)
とにかく音楽の雰囲気に合わせて踊ることが嬉しかったので、先生の厳しさには耐え抜いた感じでしょうか。

神戸> そこからプロのバレエダンサーになりたいという意識が芽生えたのはいつですか?

井脇> 最初に入ったのが東京バレエ学校でしたので、「バレエは大人がやるもの。東京バレエ学校で頑張って、東京バレエ団に入ったら舞台は出れるもの」と勝手に思っていました。
そうそう!一番最初に観た舞台が、第一回目の世界バレエフェスティバルでしたね、多分ですけど。

神戸> えぇ!凄い、生でですか?

井脇> はい、生で(笑)

神戸> 一流のものを最初に観ていたということですね。

井脇> しかも、超一流の舞台から観てしまいましたね(笑)
でも井の中の蛙の如く、発表会がなかったので、衣装が着たいとか、コンクールの存在も知らないし、留学なんて思いもつかない…そんな毎日でした。
「舞台は東京バレエ団に入ったら立てる!」と子供の頃から思い込んでいましたね。

神戸> では8歳で受けた東京バレエ学校のオーディションの時から、常に意識なさってたってことですよね。

井脇> そうですね。バレエというものはお稽古事ではなく、みんながプロを目指してるみたいな(笑)

神戸> それこそ今の海外のバレエ学校のような環境ですよね。

井脇> そんな感じですよね。
選択肢がなかったんです、私にとって。バレエスタジオ移るとか、発表会という場があるの?じゃあ発表会をやっているスタジオに移ろうという選択肢が。

神戸> バレリーナになりたいと途中から思うのではなく、始めた頃からそういう意識があったんですね。

井脇> でも実際に自分がプロのダンサーになれるかどうか、自分にその器があるのかどうか、真剣に考え始めたのは小学校6年生の時でした。
みんなが中学高校と受験をしていく中で、何になりたくて生きているのか?と考えたら、バレリーナになることしか浮かびませんでした。

神戸> その辺を詳しくお聞きしたいのですが、プロになりたい、なろうと目標が決まって、もちろん当時から毎日のようにレッスンをされていたと思うんですが、他にどんなことを努力なさっていましたか?

井脇> あ、レッスンは毎日じゃなくて、週に2回です(笑)

神戸> え?週に2回!?

井脇> そう、6年生までは週に2回だったの。少ないでしょ。

神戸> もしかしたらその分ハングリー精神というか、もっと踊りたいっていう気持ちが増したのかも知れないですね。
毎日レッスンしてダラダラしちゃうよりも、行ける日が限られているっていう方が、もしかしたら大事なんじゃないかと今個人的にも思っていて、、、。

井脇> そうなんですよ。上達するために、とにかくレッスンを増やしたいと言うんだけど、バレエだけじゃなくて外で思いっきり遊んだ方が、ずっとバレエにも人生にも役立つと思います。
もうあまりそういう場所も無いかも知れませんけど、自由に野山を駆け回って欲しい。

神戸> そうなんですね!井脇さんからそのようなお言葉を聞けると安心します。

井脇> 当然の事ながら、レッスンを増やす事も間違いではありません。
でもレッスンした分だけ上達するとは限らない。
人生バランスが大事。バレリーナとして魅力的になりたちのなら、スタジオで出来ることはほんの一部だと思っています。
素敵なダンサーたちは、みんなお話しても楽しい方ばかりですよ!

神戸> そう思います。

井脇> 「ほんの一部」と言ったら言い過ぎかも知れないけれど、バレエスタジオじゃないところでいかに身体も心も動かすか。
駆け回ったり、悲しい想いをしたり、喧嘩したり、恋をしたり、山に登りに行ったり、映画を観たり、お洋服を買ったり、お食事したりした方がダンサーとしては役に立つことばかりなんですよね。

神戸> 舞台に立つというのは、役者になることですもんね。

井脇> そうです。

神戸> それこそ花の匂いが良い匂いと気付かない子には本当の意味でその演技が出来ないと思うんです。
スタジオや劇場という空間ではそこに現実に何もないからこそダンサー自身の想像力が本当に必要になってくると思うので、そういうお話を聞くと安心します。

井脇> そう。想像力って知識だからね。お花の香りも、バラと百合ではぜんぜん違うけど、嗅いだ経験が無かったら分からないわけ。
知識がないと想像力って養えないし、スタジオの中だけでは、絶対にその部分での知識は増えない。
小さいうちは、週に2回で十分って言うと、保護者の方たちからは「それは先生だから出来たんです」って言われちゃうけど、でも本当にそう思うんです。

神戸> 井脇さんみたいな方がそんな風に言ってくだされば子供たちも本当なんだって信じてくれると思います。

井脇> お友達よりレッスンが少ない!と不安になる必要な全くありません。安心してくれればいいなって思います。

神戸> 私もそう思います。

井脇> で、中学3年間は週に3回(笑)

神戸> あ、そうなんですね(笑)

井脇> 小学校は火木、中学校は月水金みたいな感じでしたね。
高校に入って東京バレエ団を目指すことを決心した高校2年生になって、東京バレエ学校に月水金、東京バレエ団のダンサーが開いているお教室に火木土と通いました。

神戸> あーなるほど

井脇> 2年間くらいですね。毎日レッスンをしたのは。

神戸> その頃の自分に何か一言、言いたいこと、アドバイスなどはありますか?

井脇> その頃の自分は猪突猛進。
レッスンで基礎を叩き込むことが、プロになるための準備だと思っていたので、脇目も振らずその厳しさに耐えられたのかもしれないですね。
今のように情報が手に入らない時代。
それが私の場合には良かったのかも知れない。
「このまままっすぐやっていきなさい」って応援したいかな。

神戸> なんの迷いもなかったですか?

井脇> 迷うほど、選択肢を持っていませんでしたからね。
だから、「コンクールや留学の道もあるよ」っていうのは、教えてあげたいかな。
長所と短所は紙一重。世界が狭いまま大人になってしまったので、だいぶ頑固だったかも知れません。
世界の狭さに気づいてからは、自分自身でこじ開けましたが(笑)
現代は本当に沢山のチャンスがありますよね。情報が多すぎて選択に困る方は多いのではないでしょうか?
「何がしたいか?」よりも「どうすれば成功するか?」で探してしまう場合もあるでしょう。
そういう意味では、迷うことも多いのではないでしょうか?そういった時、頼りになるのはバレエの先生だと思うのですが、愛情を持って長く指導してくださった先生を信じることは大事だと思います。
昨今、ほんの数年で「先生と合わないから」と生徒側が先生を選ぶような風潮があるように思います。
もちろん先生との相性は大事です。
でも人間同士、親と子でさえ気が合わない場合もあるのだから、先生の芸術性だったり、情熱について行けるのであれば、少しくらいうまくいかない時があっても、ついていくことも大事だと思うんです。
今、バレエ界もサッカーや野球などのスポーツの世界と同じで移籍が当たり前になってきて「就職活動」という言葉をダンサー達が使うようになりましたよね。
どこのバレエ団で踊ろうかと選んでいるのを見ると今のダンサー達は自由を持っていて良いなと思うんですけど、反対に辞め癖もついていると思うんです。
団体に所属するって最低でも4年か5年は所属してみいないとわからないと思うんです。
それを1~2年で合わないからといって辞めてしまうと、その感覚がその後続いていくんですよね。
そうなると、芸術とは時間をかけて成熟していくものなのに、若くして「私はこのくらいでもうお終いで良いかな」って、才能のある若いダンサー達が30代半ばあたりで踊りを辞めてしまうっていうのは、非常に残念に思うことがあります。
踊りを続けるかどうか、それはその人自身が選ぶことだから、私が言えることではないのですが、自分の過去を振り返って良かったなって思うのは、同じところに地に足をつけて、じっくりと研鑽を重ねられたからだと思います。

神戸> 本当にそうですね。

井脇> 先生たちは怖かったし叩かれることは毎回。悔しい思いをすることも沢山ありました。
頭の先から爪先まで、身体的にダメなところをずら~~~っと言われた事もありました。
その言葉は忘れられませんが、そういう教育は当時の芸術監督の溝下司朗さんも相当厳しくて。憎く思ってしまった時も度々ありました。
今では感謝しかありませんね。
先生がいなかったら、井脇幸江は存在しないし、今こうやってジゼル教えられるのも、先生が指導している姿を見て先生の言葉を胸に蓄えることが出来たのは、私の指導者としての財産です。

神戸> 他のことに脇目を振らず、まっすぐ努力できたことに、良かったねって言ってあげたい感じでしょうか‥。

井脇> そうですね。でも矛盾してしまうんですけど、バレエに関しては本当に色んなことに興味を持っていたほうが良いとは思います。
バレエを習っているから、踊っているから修学旅行に行けないとか、体育祭に出ないとか、テニスやらないとか、スキーやらないとかも良くないと思うんです。
仮にそれで怪我をしてしまっても、怪我から学ぶこともあると思うし、そもそも怪我するようじゃダメだと。

神戸> 確かに(笑)

井脇> 子どもの頃にその本人が自分にどんな才能があって、未来にその才能で生きていくことになるなんて分からないじゃないですか。
だからどんどん色々なものに挑戦して探していけば良いと思うんです。
だから親がバレエがあるからああしなさいこうしなさい、ここがダメ、あれがダメって言わないで、お子さんが興味を持ったことは是非やらせてあげて欲しいですね。

神戸> そうですね。運動能力、神経としてもやっぱりバレエだけやっているよりも、本当にたくさんのスポーツをやっていたほうが、それこそシルヴィ・ギエムさんだって新体操出身だったりとか、

井脇> コジョカルさんも。

神戸> その能力が、バレエにも活かされて彼女たちの長所になっていますよね。

井脇> なんか、バレエだけって運動不足になりません?ちょっと。

神戸> なります(笑)

井脇> 筋肉も、使う場所って凄く限られてくるじゃない?

神戸>ジャンプ力など、他のもので養えるのではないかなとか。

井脇> だから今ね、スタジオには縄跳びやトランポリンを置いて、遊びながら身体を動かせるように工夫しています。
もうね、本当に遊んで!と思うの(笑)

神戸> 素晴らしいですね♪

井脇> 子供の頃って、階段を3段、4段くらい上から飛び降りたりしませんでした?
子供は本来、もっともっと動きたいし、危険な事もしてみたいと思うのが普通でしょ?

神戸> 今、校庭もなんか、砂利とかじゃなくて、本当に整備されてしまって、怪我しないようにみたいな。

井脇> とにかく安全に、怪我をさせないように…って大人たちが守りすぎているように思います。怪我をしないで大人になることが、一番危険なのに。

神戸> どんどん運動能力的には落ちてきてしまっているんじゃないかなって私も思っています。

井脇> バレエの床も前は木だったし、硬い床が当たり前だったから、丁寧にジャンプから降りないと怪我をしていたんです。
だけど今、どこのスタジオも恵まれていて、良い床を敷いているから乱暴に降りても怪我をしない。
反対に最近、危ない着地の仕方をする男性ダンサーを多く見かけます。

神戸> そうですね。

井脇> 硬い床の劇場ってまだ沢山あるので、見ていて降り方が怖いダンサーを見つけたらアドバイスしに私から声をかけるんですけどね。

神戸> 本人はその床が固いのかどうか、または着地が危ない着地なのかどうか気づかないこともあるということですよね。
 

第2回はここまで!
次回第3回もどうぞご期待ください♪

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IwakiBalletCompany芸術監督井脇幸江さんへのインタビュー②

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