最初に結論
シュス(sus-sous/sous-sus)とは、5番ポジションから両脚と両足を密着させながらドゥミ・ポワントまたはポワントへ上がり、前足が後足を隠すほど脚を一本の線のように見せるバレエの姿勢・動作です。海外の代表的な技術辞典では、フランス派・ロシア派を sus-sous、チェケッティ・メソッドを sous-sus と記し、両者を同じ動作として扱っています。[1]
シュスとは?
- 日本語表記
- シュス、シュ・スー
- 主な原語
- sus-sous/sous-sus
- 基本動作
- 5番ポジションから、両脚を強く集めてドゥミ・ポワントまたはポワントへ上がる
- 視覚的特徴
- 正面または客席側から見たとき、前足が後足を隠し、二本の脚が一本の垂直線に近く見える
- 使用場面
- ポーズの到達点、バランス、回転の準備や終点、前後・横への移動、振付上のつなぎ
Gail Grantの英語圏で広く参照されてきた技術辞典では、sous-sus を「5番から、その場または前後・横へ移動しながら、両脚と両足を強く集めてポワント/ドゥミ・ポワントへ上がる動作」と説明しています。また、sus-sous はフランス派・ロシア派の名称で、sous-sus と同じ動作だと整理されています。[1]
動画でシュスを確認
バレエTV「バレエ動画事典」より。全体の引き上げ、両脚が中央へ集まる過程、前足と後足の重なり方に注目してご覧ください。
sus-sousとsous-sus、どちらが正しい?
結論から言えば、流派・教授法によって用いる語順が異なります。ひとつだけを唯一の正解として扱うより、どの教育体系の用語なのかを確認することが大切です。
| 表記 | Grant辞典での位置づけ | 直訳的な説明 | 動作 |
|---|---|---|---|
| sus-sous | フランス派・ロシア派 | over-under(上―下) | 5番から両脚を密着させて、ポワントまたはドゥミ・ポワントへ上がる |
| sous-sus | チェケッティ・メソッド | under-over(下―上) |
※「sous-sous」という綴りもウェブ上や一部資料で見られますが、表記の混在が起こりやすい用語です。所属する学校・教師・シラバスの表記を優先しつつ、検索や資料調査では sus-sous と sous-sus の両方を確認すると情報を見落としにくくなります。
語源と発音
susとsousが示す方向
フランス語の sous は「下に、〜の下で」を表す語で、ラテン語 subtus に由来します。[2] 一方、sus は現代の日常語では古風な用法ですが、語源的には「上方へ」を示し、ラテン語 sursum にさかのぼります。[3]
バレエの技術語としては、前後に重なる二本の脚・足の「上と下」「下と上」という関係を示す名称として理解されています。つまり、前足が後足を覆い隠すように重なり、二本の脚が一本の線に見える形そのものが、名称に反映されています。
「シュス」は日本での慣用的な読み方
Larousseでは sus の発音をおおむね [sy]/[sys]、sous を [su] と示しています。[2][3] フランス語音に近づければ「スュ(ス)・スー」に近い響きですが、日本のバレエ現場では短く「シュス」と呼ぶ慣習が広く定着しています。
シュスのやり方を5段階で解説
ここでは、右足前の5番ポジションから、その場でドゥミ・ポワントへ上がる基本例を示します。教授法やアンシェヌマンによって、プリエを使うか、伸びた脚から上がるか、移動を伴うかは変わります。
- 5番ポジションを整える股関節からの外旋を保ち、膝と足趾の方向をそろえます。骨盤を前傾・後傾させず、肋骨を骨盤の上に重ねます。
- 床を両足で均等に押すプリエを伴う場合は、膝を足趾の方向へ曲げます。片脚だけに体重を逃がさず、左右の足裏で床からの反力を受け取ります。
- 上へ伸びながら両脚を中央へ集める踵をただ持ち上げるのではなく、内腿から足首までを中心線へ引き寄せます。足を横滑りさせて無理に重ねるのではなく、上昇と同時に脚全体を集めます。
- 前足が後足を隠す位置で立つ右足前なら、客席側から右足が左足を隠すほど密着させます。膝を伸ばし、足首が内側・外側へ崩れない高さを選びます。
- 軸を保って5番へ戻る足趾を握り込まず、足裏を長く使って踵をコントロールしながら下ろします。プリエで終わるか伸びた5番へ戻るかは、組み合わせの指示に従います。
移動するシュス
海外の技術辞典では、シュスはその場だけでなく、前・後ろ・横へ移動して行うこともできると説明されています。[1] 移動量を足先だけで作ると足首が崩れやすいため、床を押す方向と身体全体の重心移動を一致させます。
美しいシュスをつくる身体の使い方
- ターンアウトは股関節から
足先だけを外へ開かず、大腿骨の外旋と骨盤の安定を両立させる。 - 両脚で床を押す
前足・後足のどちらか一方に乗り切らず、二本の脚を一本の支持柱として使う。 - 内腿を中心線へ集める
膝だけを押しつけず、脚の付け根から足首まで長く近づける。 - 足首をまっすぐ保つ
内側へ落ちる過回内、外側へ逃げるシックリングを避ける。 - 足趾を長く使う
床をつかもうとして趾を丸めず、足底全体で床を押し返す。 - 肋骨と骨盤を重ねる
胸を反らして高さを作らず、上体を支持基底面の上へ保つ。 - 膝を上へ伸ばす
大腿前面だけを固めず、脚全体を上下に引き伸ばして膝の伸展を保つ。 - 呼吸を止めない
首・肩の力みを減らし、姿勢制御を全身で分担する。
ルルヴェ・エルヴェ・ストゥニューとの違い
| 用語 | 中心となる意味 | シュスとの関係 |
|---|---|---|
| ルルヴェ relevé |
踵を上げ、ドゥミ・ポワントまたはポワントへ「上がる」動作の広い名称 | シュスは5番から行う特定のルルヴェとして説明されることがある。ただし、5番のルルヴェすべてが、脚を一本に集めたシュスの完成形になるわけではない。 |
| エルヴェ élevé |
一部の教授法で、プリエをせず伸びた脚から上がる動作を区別する名称 | シュスという語は主として脚と足の配置・完成形を示すため、準備がルルヴェかエルヴェかは学校・教師・組み合わせにより異なる。 |
| ストゥニュー・アン・トゥールナン soutenu en tournant |
両脚を引き寄せながら回転する移動・回転動作 | 回転の途中や終点でシュスの形を通ることがあるが、シュスそのものは「回転」の名称ではない。 |
| 5番ポジション・オン・ポワント | 5番の足の関係を保ってポワントに立つ状態 | シュスでは、前後の足と脚をさらに密着させ、観客から一本に見える視覚的統合が強く求められる。 |
よくある失敗と修正の考え方
- 両脚の間に隙間が残る
足先だけでなく、脚の付け根から内腿を中心線へ長く集める。 - 前足が後足を隠さない
開始する5番の交差を確認し、上がる瞬間に両足を同時に中央へ引き寄せる。 - 片脚に体重が寄る
左右の足裏で床を押す感覚をそろえ、頭頂を両足の間から上へ運ぶ。 - 足首が内側へ落ちる
高さを下げ、膝と第2趾付近の方向をそろえる。無理なターンアウトを減らす。 - 足が外側へシックルする
小趾側だけに乗らず、踵から第2趾方向へ足部を長く保つ。 - 足趾を丸めて床をつかむ
ルルヴェの高さを下げ、足趾を長く置いたまま足底筋群で支持する。 - 膝を押し合ってしまう
膝関節を横から圧迫せず、内腿全体を上方・中央へ引き上げる。 - 胸を反らして立つ
肋骨前面を開きすぎず、骨盤の真上に胸郭と頭部を配置する。 - 肩が上がり首が短くなる
床を押す仕事を脚と足に戻し、肩甲帯は広く保つ。 - 下りるときに落ちる
足底を通過して踵をゆっくり下ろし、最後まで脚の外旋と上体の軸を保つ。
安全な練習方法
1.まず平行位と1番で足首の軸を確認する
5番で脚を交差させる前に、平行位または1番ポジションのルルヴェで、足首が内外へ崩れず、足趾を握らずに立てるかを確認します。支持基底面が狭くなるシュスでは、基礎のずれがより大きく現れます。
2.低いドゥミ・ポワントから始める
最初から最大の高さへ上がる必要はありません。膝・足首・足趾の方向を保てる高さを選び、両脚が中央へ集まる感覚を優先します。
3.バーを「引っ張らず」に利用する
バーは身体を持ち上げるためではなく、軸のずれを感じるための軽い支持として使います。手で強く引くと、脚で床を押す力と体幹の制御を確認できません。
4.鏡は正面と横から確認する
正面では足首の内外への崩れと脚の重なり、横では肋骨・骨盤・頭部の前後位置を見ます。見た目だけでなく、足部に局所的な圧迫や痛みがないかも確認します。
5.ポワントは教師の評価を受けてから
ポワントでのシュスは、足部の強さだけでなく、成長段階、姿勢制御、ターンアウト、足関節可動域、レッスン歴などを総合して判断する必要があります。IADMSはポワント開始に関する専門的なガイドラインを公開しています。[6]
舞台でシュスが果たす役割
シュスは基礎練習の形であると同時に、古典作品で非常に重要な「到達点」です。大きな移動や回転のあとにシュスで静止すると、直前までの運動エネルギーが一本の垂直線へ収束し、観客には動きが整理されて見えます。
- ポーズの完成:音楽の終止やフレーズの区切りを、明確な垂直線で示す。
- バランス:狭い支持基底面で静止し、軸とコントロールを見せる。
- 回転の準備・終点:ストゥニューや連続動作の方向を整理する。
- 群舞の統一:複数のダンサーが脚線と高さをそろえ、舞台上の幾何学的な秩序をつくる。
- 移動のつなぎ:前後・横へ小さく移動しながら、次のパへ滑らかに接続する。
したがって、シュスの練習は「高く立つ練習」だけではありません。動きから静止へ移る力、音楽の終止を身体で示す力、脚と上体をひとつの線に統合する力を養う練習でもあります。
シュスに関するよくある質問
シュスとはどのようなバレエ用語ですか?
sus-sousとsous-susはどちらが正しいですか?
シュスとルルヴェの違いは何ですか?
シュスはドゥミ・ポワントでも行えますか?
シュスが安定しない主な原因は何ですか?
シュスとストゥニューは同じですか?
シュスではどちらの足を前にしますか?
シュスは男性も行いますか?
シュスを自宅で安全に練習できますか?
足首や足趾に痛みがあるときも続けてよいですか?
海外参考文献・資料
本記事の技術解説は、日本語の二次資料ではなく、海外のバレエ技術辞典、フランス語辞典、国際的なダンス医科学団体の公開資料を中心に構成しています。掲載動画はバレエTVの「バレエ動画事典」です。
- 技術辞典Gail Grant, Technical Manual and Dictionary of Classical Ballet. “Sous-sus”および“Sus-sous”の項目。Internet Archiveで確認
- 仏語辞典Larousse, “sous”. 意味・発音・語源。Larousse
- 仏語辞典Larousse, “sus”. 意味・発音・語源。Larousse
- ダンス医科学International Association for Dance Medicine & Science, “Stretching the Point, Part 1”. ポワント/ドゥミ・ポワント時の足部アライメント、シックリング、足趾の使い方。IADMS
- ダンス医科学International Association for Dance Medicine & Science, “Approaching turnout with young dancers: Muscles that rotate the leg”. 股関節からのターンアウトと、足先から無理に外旋を作るリスク。IADMS
- 指導指針International Association for Dance Medicine & Science, “Guidelines for Initiating Pointe Training”. IADMS Resource Papers
- ダンス医科学International Association for Dance Medicine & Science, “Stretching the Point, Part 2”. 足関節後方のインピンジメント、長母趾屈筋腱などに関する解説。IADMS
- 歴史資料Cyril W. Beaumont & Stanislas Idzikowski, A Manual of the Theory and Practice of Classical Theatrical Dancing (Méthode Cecchetti), 1922. Google Books
動画・記事クレジット
バレエTV「バレエ動画事典」
海外文献をもとに日本語で再構成
動きを繰り返し動画で確認する
バレエTVの動画事典では、通常速度とスローモーションを含む反復映像で、シュスの立ち上がりと完成形を確認できます。
バレエTVでシュスを見る